董和先生に聴く


健康に良い薬草“熊柳”(Ⅲ)

                              聞き手・(株)人間医学社 大浦純孝 社長 

大浦 それでは今回は「熊柳などの生薬」の具体的な使い方について教えていただきたいと思います。たとえば、こういうタイプの人に用いると良いといったことがあるのでしょうか。

董和 熊柳などの生薬は、どなたが食べられても健康維持に役立ちます。また疲れにくくなります。人は疲れすぎると食欲がなくなることがありますが、熊柳などの生薬を食べているとそのようなことはなく、疲れも早く取れます。私の故郷では農作業が忙しいときには、早く疲れが取れるということで、熊柳に肉などを入れてスープにして食べていました。また、ふだんから家族も健康維持のために熊柳を煎じてよく飲んでいました。

大浦 昔から飲まれているのですか。

董和 はい。私が子どもの頃は町のあちこちで売られており、私の家族はもちろん、親戚や友だちなどみんなが飲んでいました。

大浦 熊柳をそのまま煎じて飲むのと、肉などが入ったスープにして飲むのと、どちらがお勧めですか。

董和 どちらもお勧めできます。煎じて、お茶代わりに飲んでいる人もいます。熊柳は苦味もなく、薬草という感じはしません。ただ、肉を少し入れた方が美味しくなります。

大浦 熊柳などの生薬はどんな方にも良いとのことですが、便秘気味の方にも使えるのですか? というのは、熊柳などの生薬は軟便気味、下痢気味の方に使っていただいていると便が固まってきて、場合によっては便秘気味になる人がたまにあります。こういう場合はどうすればよいでしょうか。

董和 熊柳などの生薬には便秘を起こすタンニンという成分がありませんので、便秘になる可能性は少ないです。もし便秘気味になることがあれば、牛乳やヨーグルトなどを食べることにより悩みが解消できると思います。


花粉症に対して

大浦 ところで、現代の日本人はアレルギー体質の人が多く、なかでもアレルギー性鼻炎、花粉症に悩まされている人がかなり増えていますが、熊柳などの生薬はこれらの病気にもいいようですね。花粉症との関係について教えていただけますか。

董和 花粉症は、植物の花粉が鼻や目などの粘膜に接触することで起こります。発作性反復性のくしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみなどの症状が特徴的です。現代医学から見ると、花粉症は花粉を吸引することによって起こるアレルギー疾患です。

大浦 どのような植物が原因となるのでしょうか。

董和 日本では、早春のスギやヒノキ科植物、初夏のイネ科植物、秋のブタクサやヨモギの花粉が主な原因のようです。また、花粉症は他のアレルギー疾患と同様に体質が遺伝する傾向にあります。家族の中にアレルギー疾患の人がいる場合は、現在症状がなくても、将来花粉症になる可能性があるといわれています。花粉を繰り返し吸い続けていると、徐々に体内に花粉症を引き起こすIgE抗体が蓄積されます。この蓄積が一定の水準に達すると、突然に花粉症を発症するようです。

大浦 では、漢方的に見ると花粉症の原因は何でしょうか。

董和 冷え症体質が花粉症を発症する本質だと思います。その原因は、主に体内の「気」の不足が関係しています。気にはいくつかの作用があります。その中で花粉症に関係するのは温煦作用(体を温め、体温を維持する働き)を持つ“陽気”で、これは「衛気」と呼ばれます。

大浦 この衛気の働きとはどのようなものですか。

董和 気の一つである衛気の機能には、「肌表(皮膚の表面)を保護して外邪の侵入を防御する」「肌肉(皮下、筋肉組織)・皮毛(体毛、毛穴)を温養(温め、養う)する」「汗孔(汗腺)の開閉を調節して体温の恒常性を維持する」の三つが挙げられています。花粉症の予防や治療には、体を温める気の機能を強化し、衛気の働きを強くすることが大切です。


衛気の強化

大浦 現代医学的に言えば、粘膜や皮膚の機能を高めることでアレルゲンである花粉の体内への侵入を防ぎ、汗腺の働きも正常化して、正常な体温の恒常性をもたらすということでしょうか。

董和 私は日本で十数年、花粉症の人を診てきましたが、舌の色が薄くて赤みが足りない方がほとんどでした。

大浦 こういう舌の人は、体内が冷えているということですね。つまり、花粉症に悩む人たちの舌を診られてきた観察結果から言えることは、ほとんどの人は体内が冷えているということですか。体内の冷えの原因は、冷たいものの摂り過ぎであるとか、日光にあまり当たらないとか、運動不足などが関係していると思いますが、こうした生活習慣は、便利で快適な生活を追い求めたことによるもので、現代人の宿命かもしれませんね。

董和 そうです。現代医学では、血液中のIgE抗体の量が花粉症の発症と関連していると考えられています。IgE抗体がある一定の量に達していなければ症状は出ません。いわば花粉症予備軍です。ところが、一定の量に達すると花粉症を発症します。

大浦 このことは漢方的にはどのように捉えるのですか。

董和 疲れやストレスなどが原因で衛気不足になります。この衛気不足がまだ軽い状態であれば花粉症を引き起こしやすい体質ということであり、すぐに発症することはありません。

大浦 しかし、将来的には花粉症になる可能性はあるのですね。

董和 はい。衛気不足がさらに進むと、花粉症の症状が現われてきます。このことから推測すると、血液中のIgE抗体の増加と漢方の衛気不足(気虚)とは同じ意味合いではないかと考えられます。いずれにせよ、花粉症の予防と治療、その予備軍をなくすためには「衛気」を強化することが一番大切です。


体質改善効果

大浦 最近「玉屏風散の漢方薬物学的特性に関する研究」というレポートを読みました。それはモルモットスギ花粉症モデルに玉屏風散を用いて、その作用を考察したものです。玉屏風散は体表部において外邪の侵入を防いでいる衛気の機能低下を改善する代表的な処方ということで、アレルギーに対して体質改善的に働くと考えられて選択されたようです。その結果は、病原体や花粉などの外邪が体内に侵入することを防ぐ作用を実験的に示したそうです。この玉屏風散と熊柳などの生薬は、衛気不足を改善するという点では似ていますね。しかし、熊柳などの生薬は、その構成植物が玉屏風散ほど単純なものではなく、複雑に組み合わされています。これはアレルギー体質の改善作用という点でも有利に働いているのでしょうか。

董和 玉屏風散は、黄耆と白朮による補気の働きと防風による駆風の働きだけですが、熊柳などの生薬には補気作用のある熊柳と山薬、黄精、大棗、九香虫(補陽気と気の巡りを改善する)の生薬が含まれているので、玉屏風散や補中益気湯と同じ働きがあります。さらに、動物生薬であるスイテツとシャチュウは、瘀血を下ろし、新血の産生を促進する働きがあるため、玉屏風散よりアレルギー体質や慢性病の体質の改善には有利に働きます。

大浦 玉屏風散は一般には市販されていませんから、漢方専門医のところにでも行かなければ手に入りません。その点、熊柳などの生薬は健康食品として販売されており、しかも玉屏風散より幅広く、かつ有効性も高いものとして利用していただけるというわけですね。

董和 熊柳などの生薬を食べて衛気を強化すると、花粉症や慢性鼻炎だけでなく、体力のない人の風邪などの改善にも役立ちます。

大浦 風邪が長引いて食欲や気力がなくなっている時には、非常に効果がありますね。


馬鞭草などの生薬

董和 もう一つ、花粉症は花粉に刺激され引き起こされるくしゃみ、鼻水、鼻づまりなどの症状に対しても治療が必要です。

大浦 どのような治療でしょうか。熊柳などの生薬だけではなく、何か別のものをプラスした方がいいということでしょうか。

董和 はい。熊柳などの生薬は、衛気を高めて花粉症の体質を改善するのには役立ちます。しかし、すでに花粉症の症状が出ている場合は別のものを併せて改善する必要があります。

大浦 どのような薬草をプラスするといいのでしょうか。

董和 それは「馬鞭草などの生薬」です。

大浦 馬鞭草については以前にお話していただきましたが、世界各地で古くから用いられているハーブの一種でしたね。

董和 ええ。これは主材であるクマツヅラ科植物の馬鞭草(ばべんそう)に、柴胡(みしまさいこ)の葉、枳殻(ダイダイの未熟果実)、生姜、大棗(クロウメモドキ科植物の果実)の四つを組み合わせたものです。

大浦 漢方的には「湿・熱・毒」の邪気を解する効果があり、これらの毒によって発症するインフルエンザ、ノドの痛み、頭痛、黄疸、浮腫、マラリアなど、さまざまな病症に効能がある薬草でしたね。昨年に流行した新型インフルエンザに馬鞭草などの生薬をお勧めしたところ、大変喜ばれました。

董和 馬鞭草などの生薬は、インフルエンザのような熱の出る風邪だけでなく、鼻風邪にも役立ちます。とくに急性鼻炎や慢性鼻炎など、鼻水や鼻づまりなどの鼻症状の改善にお勧めできます。ただ、慢性鼻炎のときには、馬鞭草などの生薬と熊柳などの生薬を併せて食べていただくと、いっそう有効です。

大浦 熊柳などの生薬は花粉症の体質改善や予防に役立ち、すでにくしゃみ、鼻水、鼻づまりなどの症状が出ているときには馬鞭草などの生薬が役立つということですね。これからは、この方法でお客様に勧めていきたいと思います。また、さまざまな慢性病や健康維持にも役立つということですので、それについては次回に説明していただくことにします。

(つづく)  戻る